電子線照射お役立ち情報

電子線照射における、いろいろな評価

投稿日:2021年12月24日最終更新日:2022年01月14日

電子線照射およびその効果を評価する方法は一般的によく知られている方法から、電子線照射特有の方法まで様々です。今回は評価法でよく用いられているものをピックアップして簡単にご紹介したいと思います。

電子線照射の評価

電子線照射で最も用いられている評価方法としては、電子線がどれだけ対象物質にエネルギーを与えたかを測定する、線量測定となります。線量は今までご紹介したほとんどの話で触れられているように、非常に重要な指標です。線量計は測定する電子線の加速電圧によって使い分ける必要があります。なぜなら、加速電圧によって透過能力が異なり、特に低い加速電圧においては線量計の厚さが無視できないためです(加速電圧と材料の厚さに関してはこちらを参照ください)。
一般的には、加速電圧が300kV以下ではブルーセロファンやB3などのラジオクロミックフィルム線量計を、300kVを超える場合は三酢酸セルロース(CTA)線量計を用います。
与えられたエネルギーにより生成したラジカルを測定する方法として、電子スピン共鳴(ESR)分析が用いられることがあります。これは生成したラジカルの定性、定量分析のほか、ラジカルの時間変化を観測することにも優れています。

電子線架橋の評価

電子線架橋を評価する最も一般的な指標はゲル分率です。ゲル分率とは、通常では特定の溶剤に溶解する高分子が、架橋によって溶解しなくなった重量分率を表します。
その測定方法はJIS規格に定められています。JIS K 6796に定められているものはポリエチレンのゲル分率測定(詳細は別の記事で紹介します)で、他の高分子はその高分子が溶解する薬剤を用いて測定する必要があります。弊社ではポリエチレンやポリアミドなどのゲル分率測定サービスを行っております。
ゲル分率以外の評価方法としましては、引張試験などの機械強度の評価や耐熱性を評価する、熱変形試験などがあります1)。図1に示しました、低密度ポリエチレン(LDPE)の電子線照射による引張応力や伸びの変化のように、多くの高分子は電子線架橋により伸び率が低下し、引張強度が上昇する傾向にあります。

引張強度
図1 LDPEの電子線照射による伸び率と引張強度の変化

 

電子線グラフト重合の評価

電子線グラフト重合において、グラフトした機能性モノマーの量を評価するために、グラフト率を測定するのが一般的です。グラフト率とは電子線グラフト重合前後の高分子(基材)の重量差を電子線グラフト重合前の基材で除した値で、式1で示されます。

グラフト率(%)=100×(M1-M0)/M0 (式1)
M0:グラフト重合前の基材の重量
M1:グラフト重合後の基材の重量

グラフトした機能性モノマーがイオン交換基のような酸、アルカリで定量的に反応が起きるような官能基をもつものであれば、酸、アルカリの逆滴定によって官能基量を測定して、グラフトした量を評価することもあります。また、付加した機能を評価するもので、接触角測定や難燃性試験などもあります。

電子線硬化の評価

電子線硬化については、他の硬化膜の試験と同様に、硬度や付着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐候性などを評価します。多くはJIS K 5600に定められた方法にしたがい、引っかき硬度(鉛筆法)、粘着テープを用いたクロスカット試験、荷重をかけたスチールウール往復処理前後のヘーズメーターによる測定、サンシャインウェザーメーターによる加速劣化試験などが用いられています。

その他の評価

電子線照射全般に用いられる評価方法としては、電子線照射により発生するガスを分析するガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)や電子線照射前後の分子量分布を測定するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、その他各種熱分析、顕微鏡観察などあります。
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察では、電子線グラフト重合前後の基材の様子を観察することで電子線グラフトによる基材の外観や断面の変化が観察できます。図2は粒子径150~200μmの基材にグラフト率200%程度グラフトしたところ、粒子径が倍程度になっている様子です。

電子線グラフト重合
図2 粒子状基材の電子線グラフト重合前後の様子
左)グラフト前  右)グラフト後

さいごに

電子線照射による加工の評価は、電子線照射そのものの評価と加工による機能の評価を関連付けることが重要になってきます。弊社ではゲル分率測定のように一部評価の実施、評価方法の提案を行っております。もし評価方法でお悩み事がございましたら、お気軽にご相談ください。

(奥村記)

参考文献

1)上野山、宿島 他:「放射線架橋ポリプロピレンの開発」、SEIテクニカルレビュー 第160号 PP.63-68(2002)

 

 


[本件に関するお問い合わせ]
株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
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