ポリエチレンの改質の話 その1 ~結晶性と電子線架橋~
投稿日:2022年01月31日最終更新日:2022年02月25日
電子線加工でよく扱われる材料にポリエチレン(PE)があります。PEに対して電子線照射試験を実施したデータをもとに、電子線架橋に影響する因子について紹介していきます。
今回はその1として、密度の異なるPEへの照射効果の差から結晶性の電子線効果への影響について紹介します。
電子線工業利用の始まりはPE
PEは汎用プラスチックの1種であり、安価でバランスのとれた性能を持つことから、幅広く利用されている材料です。
実は、電子線による材料改質の始まりは、1950年代に放射線によるPEの架橋が発見されたことで1)、それ以来、PEの架橋について様々な実験が行われています。また、日本で初めての電子線の工業利用は、1960年ごろに始まったPE架橋電線製造であり、これらのことからも電子線加工においてPEがとても重要な樹脂であることが分かります。
PEの種類と結晶性
PEの化学式(-CH2-CH2-)はとても単純ですが、合成方法によってさまざまな分子構造を持つPEが製造されています。
大別すると、側鎖が多い低密度PE(LDPE)と側鎖がほとんどない高密度PE(HDPE)の2つに分類されます。
樹脂の結晶性は、ポリマー分子がきれいに並んでいる方が高くなりますので、LDPEは側鎖が邪魔をするため結晶性が低く、HDPEは側鎖がないため、結晶性は高くなります。
電子線架橋について
PEの電子線架橋イメージを図1に示します。
高分子材料に電子線を照射すると、電子線のエネルギーにより分子結合が切れ、活性点(ラジカル)が発生します。分子鎖間でラジカルが反応し、結合を形成することを架橋と呼び、この架橋反応により三次元網目構造となることで、耐熱性、強度などの特性が向上します。
結晶性と電子線架橋の効果
この電子線による架橋は、結晶領域よりも非晶領域で発生するとされています2)。
つまり、非晶領域の多い=結晶性が低い方が、電子線架橋しやすい材料といえます。LDPEとHDPEに電子線を照射し、架橋度合の評価としてゲル分率を測定した結果を図2に示します。ゲル分率の測定については別の記事で紹介しますが、ゲル分率が高いほど、より多く架橋していることを表しています。このデータからも、LDPEはHDPEよりも低い線量で高いゲル分率を示し、電子線架橋しやすいことが分かります。
まとめ
材料の結晶性は電子線の効果に影響します。結晶性が低い材料の方が電子線架橋は起こりやすく、LDPEとHDPEを比較すると、LDPEの方が電子線架橋しやすい材料といえます。
結晶性は、材料の製造方法にも影響されます。例えばフィルムの場合、延伸フィルムと無延伸フィルムでは結晶性が異なり、電子線架橋しやすさが変わる可能性があるため注意が必要です。
さて次回は、ポリエチレンの改質の話その2として、照射雰囲気と照射時温度の電子線架橋への影響について紹介したいと思います。
(越智記)
参考文献
1) A. Charlesby, “Cross-linking of polyethene by pile radiation”, Royal Society, Vol.215, Issue 1121(1952)
2) G. S. Y. Yeh, C. J. Chen, et al.” Radiation-induced crosslinking: Effect on structure of polyethylene”, Colloid Polym. Sci., 263, 109-115(1985)
以上
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