電子線グラフト重合 その2 ~グラフト重合に影響を与える要因について~
投稿日:2022年08月22日最終更新日:2022年08月22日
電子線グラフト重合は素材に機能を付加することができる魅力的な技術です。しかし、電子線照射のみで完結するものではなく重合反応の工程も必要となり、多くの因子がグラフト重合に影響を及ぼします。
今回は、その因子から特に影響力が大きいものをピックアップして解説したいと思います。
電子線グラフト重合に影響を与える因子
電子線グラフト重合の工程は、素材に電子線照射を行う工程と、素材に機能をもつモノマーを接触させて重合反応を行う工程の2つがあります。(工程の詳細につきましては、その1を参照ください。)
電子線照射の工程においては電子線架橋と同様に、加速電圧や線量、照射時の雰囲気ガスなどがグラフト重合に影響を与えます。また重合反応の工程においては通常の化学反応と同様に、反応液の溶媒や濃度、反応温度、反応時間といったものがグラフト重合に影響を与えます。さらに前照射法では2つの工程の間にラジカルが減衰する可能性がありますので、ラジカルの管理もグラフト重合に影響を与える因子となる場合があります。
加速電圧、線量について
電子線グラフト重合において電子線照射は、グラフト重合反応の起点(つまりはラジカル)を生成する役割を担っています。線量は素材に与えるエネルギー量を表し、これが増えれば生成するラジカルは多くなります。したがって、線量が増えれば、グラフト率は増加します。例として粉体のポリプロピレン(PP)にアクリル酸をグラフト重合した時の、線量とグラフト率の関係を図1に示します。線量が増えるとグラフト率も増加していきますが、グラフト率の増加率は線量が増えるにつれ、鈍化していきます。これは生成したラジカルが密になるものの、グラフト鎖のかさ高さのためにラジカルが十分に反応できていないと思われます。
加速電圧は電子線の厚み方向の影響力である、透過能力を決める因子です。つまり加速電圧を操作することで、ラジカルの生成を素材全体にしたり、照射面にだけにしたりすることができます。これを利用すれば、素材の表面は親水性が付加され、裏面は親水性が付加されていないといった処理も可能となります。
反応液の溶媒について
電子線グラフト重合ではほとんどの場合が固体である素材に対して、付加したい機能を有するモノマーを溶解した反応液を接触させることで反応が進行します。ですので、電子線照射で反応の起点となるラジカルがどれだけ素材の内部に生成したとしても、反応液が素材の内部に浸透しなければ、グラフト重合は素材の表面ばかりで終始してしまいます。このような理由から反応液の溶媒の選択は重要です。基本的には素材に浸透しやすい溶媒を選定した方が良いです。一方で、スチレンスルホン酸ナトリウム塩のような水以外の溶媒が難しい場合は、素材が親水性でないとグラフトし難いです。
また反応液にエマルション溶液を用いることで、グラフト率を大きく増加させることができます。図2では粉体のセルロースに、メタクリル酸グリシジル(GMA)を電子線グラフト重合する場合の、有機溶剤と水系エマルションのグラフト率を比較しています。水系エマルションでは低線量で大きなグラフト率となり、有機溶剤と同線量でのグラフト率を比較すると5倍程度となっています。
反応液の濃度について
化学反応において、重要な因子である反応液の濃度ですが、電子線グラフト重合においても同様で、線量と並んでグラフト率に大きな影響を与える因子であると云えます。図3には粉体のPPにアクリル酸をグラフトする場合の、アクリル酸の濃度とグラフト率の関係を示しています。増加傾向はほとんど直線的で、線量のときのように、増加率が低下するような傾向も見られません。反応液の濃度はグラフト鎖の長さ、すなわち分子量に影響を与えていると考えられます。とにかくグラフト率を大きく変化させますので、グラフト率のばらつきにも影響を与えます。品質管理において、反応液の濃度管理には十分留意する必要があります。
さいごに
今回ピックアップした因子以外にも、酸素濃度や電子線照射時および重合時の温度はグラフト重合に影響を与えますので、管理が必要となります。当社は、長年電子線グラフト重合に携わっておりますので、疑問などございましたらお気軽にご連絡ください。
次回は、電子線グラフト重合により付与できる機能について、ご紹介したいと思います。
(奥村記)
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