架橋度の指標「ゲル分率」について
投稿日:2022年01月14日最終更新日:2022年02月25日
ゲル分率とは一般的に高分子化合物の橋掛け度合い、すなわち架橋度を測定する手法です。
従って、高分子の架橋の判定や架橋の定量化には、ゲル分率の測定が有用です。
ゲルとは
ゲルとは溶剤に不溶の三次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤体の総称です。簡単に言えば、ゲルとは高分子の鎖が網目状に無数に繋がった状態のことです。
また、ゲルは固体と液体の中間の物質形態であり、その化学組成やそれぞれの要因によって粘性のある溶液に近いものから、かなり硬い固体に近いものまで変化します。
ゲルは目の水晶体や角膜、ゼリー、豆腐、コンタクトレンズ、おむつ、芳香剤など身近にも多く存在し、いろいろな分野で重要な役割を果たしています。
ゲル分率の測定方法とその規格
ゲル分率の測定方法として、ポリエチレンのみがJIS規格に登録されています。
( JIS K 6796 : 架橋ポリエチレン製 (PE-X) 管及び継手−ゲル含量の測定による架橋度の推定)
測定装置の概略図を図1に示します。測定方法の概要は以下となります。
②金網で包んだ試料をキシレンが入ったフラスコに浸漬する。
③フラスコには冷却管を付け、キシレンを8時間ほど沸騰させる。
④フラスコ内から金網で包んだ試料を取り出し、完全に乾燥させる。
⑤金網で包んだ試料を精秤し、(式1)でゲル分率を算出する。
ゲル分率(%)=M2/M1×100 (式1) | |
M1:有機溶剤に浸漬する前の試料の質量 | |
M2:有機溶剤に浸漬後、完全乾燥した試料の質量 |
高分子と溶剤
高分子を溶剤に浸すと、高分子同士の凝集力が高分子と溶剤との親和力より弱い場合には、高分子は膨潤過程を経て溶解します。この際、高分子化合物の分子量が極端に大きいか、網目構造を持っていると高分子は膨潤状態で止まります。
溶解・膨潤・相溶性は、高分子や溶剤の構造・種類・性質のほか、測定温度・濃度により変化します。従って、高分子の種類により溶解する溶剤の種類は異なります。
例えば、JIS K 6796でポリエチレンの溶剤には、キシレンが選定されています。
サンプル調整における注意点
①試料
フィルムは折りたたまれた状態では溶剤と接触し難いので細かく切断します。
難燃剤などの無機物が配合されている場合があるので、必ず未照射品も測定します。
未照射品で溶解後に残分があり、見かけ上のゲル分率が生じた場合には、測定試料のゲル分率から未照射品のゲル分率を減じます。
②かご(試料を包むための金網)
JIS K 6796では、かごの目開きサイズは125±25μmと規定されています。網の太さにも関係しますが、標準的には、120~150メッシュの金網となります。
測定上の注意点
①乾燥
高沸点溶剤を用いた場合、ゲル分率が高い試料では、内部の溶剤除去には非常に長い時間を要します。そこで、溶剤から取り出した直後の膨潤状態の時に、アセトンやアルコールなどの低沸点溶剤に浸漬して溶剤交換をすることをお勧めします。
②試料数
JIS K 6796では、少なくとも試料の数は2点であり、個々の測定値に3%以上の差異が生じたら、再測定と定義されています。
③測定結果の算出
個々の結果と平均値を整数で表します。小数点以下の値は四捨五入して下さい。
高分子とゲル分率
高分子の溶解性を左右するものは高分子鎖の溶剤との親和性(似たもの同士が良く解け合う)だけでなく、次のような関係があります。
分子量大 → 溶解性小
結晶性良 → 溶解性小
分岐構造多 → 溶解性大
架橋構造多 → 溶解性小
放射線架橋に限らず架橋によって、一本の高分子鎖にもう一本高分子鎖が付加しただけでは、非常に大きな分子量の高分子が僅かに存在するようになっただけで、ゲルとしては観測されません。しかし架橋が進むと共に、三次元的な網目構造ができてくると、それらが凝集してゲルの形態を示すようになります。
この現象は線量とゲル分率の関係に現れており、通常、線量を変えてゲル分率を計測すると、はじめのうちゲルは見られず、ある一定の線量を超えて初めてゲルが測定できるようになります。この閾値となる線量をゲル化線量と呼びます。図2にその一例を示します。このゲル化線量も架橋しやすいかどうかの指標となります。
まとめ
架橋度の評価にはゲル分率測定が最も有効です。ポリエチレン以外の高分子のゲル分率測定を測定するには、最適な溶剤を選定し、JIS K 6796を参考にして、独自で測定条件を決定していく必要があります。
ゲル分率測定は弊社の評価サービスとして実施しています。溶剤の選定など測定に関するご質問がございましたら、お気軽にお問合せください。
(中井記)
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