電子線照射お役立ち情報

SDGsの達成に貢献する電子線照射技術

投稿日:2022年03月15日最終更新日:2022年03月15日

当社では、電子線照射装置の製造・販売を行っており、電線被覆の耐熱性改善やタイヤ用ゴムシートの流動性改善など、多くの分野で工業利用され、今なお、その用途は広がりを見せております。
本稿では電子線照射技術の活用について、SDGsの達成に貢献するという側面から適用例をご紹介いたします。

高性能な食品包装材の製造

食品の衛生管理、保存において、食品包装材はもはや欠かせない存在です。電子線を高分子に照射すると、様々な化学反応を引き起こします。その化学反応のうち、二つの高分子鎖の間を化学結合で橋掛けして、高分子の網目構造をつくる架橋技術があり、食品包装材の製造に利用されています。
架橋することで、耐熱性や熱収縮率、さらに低温での基材強度など、食品包装材としての性能が向上し、食品保存期間の延長、食品ロス削減に貢献しています。
また、電子線照射は短時間で完了するため、包装材の製造工程においては、フィルムの押出成形から電子線照射までの一貫した生産ラインを構築することが可能で、生産性を高くすることができます。

フッ素樹脂のリサイクル

フッ素樹脂の一つであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、高いはっ水性、はつ油性、耐薬品性など優れた性能があるため幅広い用途に用いられています。しかし、PTFEは加熱押し出し成形加工が難しいため、切削加工が主体であり、加工後に発生する切削屑のリサイクルは、PTFEの性質から難しく課題でした。
電子線照射による高分子の崩壊、低分子化を利用する事により、PTFEの微粉末化が可能となり、潤滑材、塗料の添加剤などへリサイクルが可能となりました。

印刷・塗膜の電子線硬化によるVOC削減

従来、印刷等に用いられる熱硬化型の塗料は、有機溶剤で希釈したものが多く、基材に塗布後、乾燥させて塗膜を形成するため、乾燥工程でVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)が排出されます。VOCは大気汚染、健康被害のリスクがあり、排出抑制や環境濃度の管理が進められています。
紫外線硬化(UV硬化)や電子線硬化型の塗料は、有機溶剤による希釈は必要ありません。しかし、UV硬化は毒性が強い重合開始剤が必要となります。一方、電子線硬化は、重合開始剤が不要のため、とても安全です。
表1に熱硬化、UV硬化と電子線硬化の比較を示します。電子線硬化は、VOCの大幅な削減と共に乾燥工程の短縮、削減による省エネルギー化が可能な硬化方法です。近年では、安全性が強く求められている住宅建材など、身近なところで採用されています。

熱硬化、UV硬化、電子線硬化の比較
表1 熱硬化、UV硬化、電子線硬化の比較

パワー半導体の特性改善

電子線照射による、半導体デバイスへのライフタイム制御技術は40年以上前から実施され、半導体スイッチの高速化、損失改善などの性能向上に利用されています。
この技術はプロセスの簡易さを特徴とし、特性の均一性、細かい制御性などを実現するための重要な技術であり、自動車、鉄道、ロボット、家電製品などに用いられるインバータなどのスイッチング素子に使用されており、省エネルギー化に貢献しています。

植物由来プラスチックの高性能化

石油を原料としたプラスチックによる汚染対策の1つとして、植物を原料としたプラスチックの活用が注目されています。
植物由来のポリ乳酸は、耐熱性や透明性が低いことが課題でした。電子線架橋による改質でポリ乳酸の耐熱性向上、透明性維持が可能となり、石油プラスチック代替品としての用途を広げています。
また、生分解性をもつプラスチックであるポリカプロラクトンを電子線架橋すると、形状記憶性能を有するようになります。60℃程度に熱して延伸したまま、冷却すると延伸した形状を維持しますが、再び60℃に熱すると延伸前の形状に戻ります。これは現在、電子線照射技術の特長を理解するための学校教材として利用されています。

ハイドロゲルの製造

電子線による架橋技術は、水溶性の高分子をハイドロゲル化するためにも用いられます。
例えば、生分解性のポリビニルアルコールを、水に溶解させて電子線照射をすることでハイドロゲルとなり、これは創傷被覆材として利用されています。このようなハイドロゲルの製造の特長は、水溶性高分子と水以外の一切の添加剤を必要としないことです。
当社では、ハイドロゲルの1つであるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)ゲル(図1)の製造を行っています。CMCは天然素材のパルプを原料としており、当社で製造しているCMCゲルはCMCと水のみで構成されているため、環境に与える負荷が非常に小さく、コンクリート打設時の養生シートの代替として利用されています。

CMCゲル
図1 CMCゲル 左)吸水前 右)吸水後

まとめ

本稿ではSDGsに貢献するという側面から、電子線照射技術の適用例をご紹介いたしました。電子線の活用はSDGsの達成以外でも人々の生活を豊かにする可能性を秘めています。当社は皆様のニーズに応え、新技術・製品の開発に携わっていけるよう努めていきます。
なお、本稿は日新電機技報掲載の「SDGsの達成に貢献する電子線照射技術」1)を再編集したものです。

(藤田記)

参考文献

1)奥村、寺澤 他:「SDGsの達成に貢献する電子線照射技術」、日新電機技報 66 No.2(2021.11)

以上


[本件に関するお問い合わせ]
株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
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