電子線照射お役立ち情報

ポリエチレンの改質の話 その2 ~温度・雰囲気と電子線架橋~

投稿日:2022年03月30日最終更新日:2022年03月29日

電子線加工でよく扱われる材料にポリエチレン(PE)があります。PEに対して電子線照射試験を実施したデータをもとに、電子線架橋に影響する因子について紹介します。
今回はその2として、照射時のサンプル周囲温度(照射温度)と雰囲気ガス(照射雰囲気)の電子線架橋への影響について紹介します。

はじめに

ポリエチレン改質の話 その1では、PEの結晶性の違いが電子線架橋へ与える影響について紹介しました。電子線による架橋は非晶領域で発生するため、結晶性の高い高密度ポリエチレン(HDPE)よりも結晶性の低い低密度ポリエチレン(LDPE)の方が架橋しやすく、架橋度合の指標となるゲル分率も高くなります。
今回は、照射温度と照射雰囲気の電子線架橋への影響について紹介します。

照射温度の影響

一般的に化学反応は熱によって促進されます。電子線架橋反応においても、高温下で電子線照射を行うことで架橋が促進されることが知られています1)。照射温度の電子線架橋への影響を確認するために、LDPEとHDPEの2種類の材料へ室温及び80℃加熱状態で照射し、架橋度合いの評価としてゲル分率を測定した結果を図1に示します。
LDPEでは、80℃加熱条件の方が若干ゲル分率は大きいものの、室温・80℃加熱の差はほとんど見られませんでした。しかし、HDPEでは、80℃加熱条件の方が室温条件よりも約10%ゲル分率が向上し、加熱による架橋促進効果が確認できました。これは、HDPEの方がLDPEに比べて結晶性が高く、室温における高分子鎖の束縛が大きいため、加熱による分子鎖運動促進の影響が大きいことに起因すると考えられます。
電子線架橋は、電子線のエネルギーによって分子結合が切れることで発生した活性点(ラジカル)同士が、分子鎖間で反応し、結合を形成することで起こります。加熱によって分子鎖運動が活発になると、分子鎖間のラジカル同士が結合する確率が上がり、架橋が促進すると考えられます。

PE, 照射時温度, 架橋効果, 関係
図1 PEにおける照射時温度と架橋効果の関係

照射雰囲気の影響

放射線酸化照射雰囲気の記事でも紹介していますが、空気中で電子線照射を行うとラジカルが空気中の酸素と反応し、表層に酸化層が形成されます。酸化層では、架橋反応の起点となるラジカルが酸素との反応に消費されてしまっているため、架橋が進みません。一方、酸素を含まない不活性ガス中で照射すると酸化反応が起きないので架橋を促進できることが知られています1)。また、酸化層は表層のみに形成されるので、比表面積の大きい薄いフィルムの方が照射雰囲気の影響が大きいとされています。
照射雰囲気による電子線架橋の影響を確認するために、LDPEとHDPEのフィルムを空気中・窒素中で照射し、ゲル分率を測定した結果を図2に示します。
窒素中照射は空気中照射に比べて10%以上ゲル分率が向上し、不活性ガスである窒素中照射による架橋促進効果が確認できました。一方、比較的厚いシートでは、窒素中、空気中の差はほとんど見られないことを確認しています。
これらの結果から、薄いフィルムを照射する場合には照射雰囲気の影響を考慮する必要があることが分かります。

PE, 照射雰囲気, 架橋効果, 関係
図2 PEにおける照射雰囲気と架橋効果の関係

まとめ

照射温度は電子線架橋に影響します。高温の方が電子線架橋は進む傾向がありますが、材料の結晶性などによっても影響の度合いは異なります。
温度の影響が大きい材料へ照射する場合や季節による室温変化の大きい場所で生産されるお客様の中には、季節や室温に応じた照射条件を設定されている場合もあります。
また、比表面積の大きいフィルムなどを照射する場合は、照射雰囲気も電子線の効果に影響します。窒素などの不活性ガス雰囲気で照射することで架橋促進効果が期待できます。
さて次回は、ポリエチレンの改質の話 その3として、今回少し触れた表面酸化の影響が厚み方向にどの程度影響しているのか、また、電子線架橋の力学特性への影響について紹介したいと思います。

(越智記)

参考文献

1)中井、向井:“高分子の電子線照射に及ぼす環境条件の影響” マテリアルライフ,Vol.6, p32-38(1994)

以上


[本件に関するお問い合わせ]
株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
こちらのフォームよりお問い合わせください。

この記事に関連するカテゴリ・タグ

SNSでシェアする