電子線発生原理と電子線照射装置の種類について
投稿日:2022年05月07日最終更新日:2022年05月09日
当社では低エネルギーから高エネルギーまで幅広いエネルギー範囲の電子線照射装置を製造・販売しています。
電子線の「線(ビーム)」とは、エネルギーを持つ光や粒子の流れという意味です。つまり電子線は、エネルギーを持った電子の流れを表しています。
本記事では電子線発生原理と電子線照射装置の概要、さらに当社で製造している電子線照射装置の種類と特長について紹介します。
熱電子と電子線発生の原理
金属中には比較的移動しやすい自由電子と呼ばれる電子があり、この自由電子により金属に電流が流れます。金属に電流を流し加熱すると、原子内の電子は不規則に揺さぶられ、その電子のエネルギー量が大きくなると電子が金属のエネルギー障壁を超え金属の外へ飛び出してきます。これを熱電子と言います。熱電子の数は金属の温度が高いほど多くなります。
図1(2)は、電子の加速原理を示しています。
真空容器内で金属(フィラメント)に熱電子を発生させます(図1(1))。さらにフィラメントに負(マイナス)の電圧を与えますと、電子そのものは負の電荷を帯びていますので反発力により電子は著しく飛び出しやすくなります。そしてフィラメントから少し離れた場所にフィラメントの電圧より高い正(プラス)の電極(陽極)をおきますと、飛び出した電子は陽極に向かって移動します。この電子はフィラメントと陽極間に与えられている電圧E(V)に対応して加速されます。この加速された電子を電子線と呼び、電子のもつエネルギーの量はE(eV, エレクトロンボルト)と表されます。
真空容器内で電子を加速することで、電子と大気中の分子との相互作用によるエネルギーの損失をなくすことができます。
図1(3)のように、真空容器の一辺に薄い金属箔(照射窓箔)を取り付けて真空容器の真空を保つと共に、その金属箔を陽極とします。すると真空中で十分加速された電子(E[eV]のエネルギーを持つ)は、照射窓箔を透過して、大気中に飛び出します。これにより様々な素材に大気中で電子線を照射することが可能になります。このような方法で電子線照射を行う設備を電子線照射装置と呼び、電子加速器とも言われます。
電子の加速方法
電子線照射装置は、電子の加速方法により静電加速器と高周波加速器があります。
静電加速器は、先に述べました加速原理を用いており、直流高電圧が作り出す電界によって電子を加速する方式です。図2に示すように、静電加速器は、昔のTVに使われていたブラウン管と原理的に同じです。電子線照射装置がブラウン管TVと異なるところは、加速する電子の加速電圧が大きく(一般的に電子線照射装置の加速電圧は100kV以上に対して、ブラウン管の加速電圧は20~30kV)、電子を大気中に取り出せることです。
静電加速器の特長は、エネルギー変換効率が高く省エネであることです。一方、高電圧になるほど装置サイズが大きくなるため実用において最大の加速電圧は5MV程度です。
高周波加速器とは電子を交流電界の中で繰り返し加速する方式で、電子が電極を通過するのに同期して交流電圧を印加することにより電子を加速することになります。高周波電界を使用するため、静電加速器と比較して、エネルギー変換効率は低くなりますが、高エネルギーの装置でも比較的小さなサイズで製作が可能で、電子線照射装置としては10MeVの装置も使用されています。
当社の装置は、静電(直流)による加速方式を採用しています。
電子の走査方式
電子線照射装置は電子線を素材に照射することを目的としているため、電子線にある程度の幅(照射幅)をもたせる必要があります。照射幅をもたせる主な方法はエリアビーム型とスキャン(走査)型の2つがあります(図3)。
エリアビーム型は、照射幅に必要となるだけの複数のフィラメントを高電圧部に設置することで、幅広い電子線を作り出す装置です。
1段加速ですので、加速電圧が比較的低い300kV以下の装置に適用される方式です。
エリアビーム型の特長は、複数フィラメントを有するので、スキャン型に比べ大きなビーム電流の出力が可能で、ラインスピードを大きくでき、生産性が高いことです。電子線照射の均一性は走査型ほど良くないですが、加速電圧が小さいため、比較的装置が小型化でき、スキャン型に比べ装置コストも小さくなります。薄いフィルムの架橋や樹脂のキュアリングに利用されています。
スキャン型は、単一のフィラメントから電子を取り出し、加速管を用いて加速してスポットの電子線を作り出します。このスポットの電子線を走査コイルによる磁場を用いて、スキャンして必要な幅に広げるタイプの装置です。
加速管を用いて電子を段階的に加速するので、加速電圧が300kVを超える中高エネルギーの装置に利用される方式です。
スキャン型は、電子線照射の均一性が良く、5MVまで適用できますので、比較的厚いシートや電線の架橋などに利用されます。その反面、発生する電子のエネルギーが大きいため電子から放出される制動X線のエネルギーも大きくなり、X線遮蔽物の厚さが大きくなるため装置は大きくなり、それに伴って設備コストも大きくなります。
さいごに
電子線照射装置の加速方式、走査方式(ビーム形状)についてそれぞれの特長をまとめますと、表1のようになります。それぞれメリット・デメリットがあり、製造ラインに適した装置を選択する必要があります。
当社では幅広い加速電圧の電子線照射装置を製造しておりますので、装置導入についてのご相談は、お気軽に当社にご連絡ください。
(寺澤記)
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