電子線の斜め入射の注意点
投稿日:2022年09月01日最終更新日:2022年09月01日
スキャン型の電子線照射装置ではスポット状の電子ビームが電磁場により左右に走査されます。そのため電子線の進行方向は照射窓箔中心部付近では真下に、両端部付近では斜めになります。そして素材にその進行方向を保ったまま電子線が照射されることになります。この斜め方向の照射が素材にどのような影響を与えるのかを説明します。
斜め入射とは
電子線照射装置にはエリアビーム型とスキャン型があることは、以前の記事でお話しました。(詳しくはこちらを参照ください。)エリアビーム型の電子線照射装置では電子ビームを電磁場で走査することなく照射窓箔を真直ぐに貫通し、空気層も真直ぐに通過する為、照射窓箔の中央部と端部で被照射物となる素材に到達するまでに失われる電子線のエネルギーは変りません。一方スキャン型の電子線照射装置では電子が走査されるため、照射窓箔や空気層をある角度を持って進みます。そのため被照射物へ到達するエネルギーは、照射窓箔の中央部から両端部へ行くにつれて徐々に変化していきます。そして被照射物が照射窓箔の両端部にいくにつれて、照射角度が大きくなる斜め方向の電子線が照射されることになります。この事を斜め入射と言います。
照射窓箔、空気層を通過する距離の違い
図1にスキャン型の電子線照射装置における、電子線の軌道と照射窓箔、空気層、そして被照射物の関係の模式図を示します。模式図において、照射窓箔の厚さをT0、照射窓箔から被照射物までの空気層をA0とします。また被照射物の中心から端部までの距離をL、走査角度をθとしたとき、被照射物端部に照射される電子線が進む照射窓箔の距離T1は(式1)で表されます。
T0=T1×cosθ
T1=T0/cosθ(式1)
同様に被照射物端部に照射される電子線が進む空気層の距離A1は(式2)で表されます。
A0=A1×cosθ
A1=A0/cosθ(式2)
例えば走査角度θを30度、T0=50μm、A0=10cmの時、T1は約58μm、A1は約12cmとなり、被照射端部に照射される電子線が進む照射窓箔や空気層の距離は、中心と比較して2割程度増えることになります。この距離の分だけ、電子線のエネルギーが減衰してしまうことになるわけです。
斜め入射が与える透過能力への影響
上述したように、偏向を受けない中心軸上で照射された電子線に比べると被照射物端部に照射された電子線は照射窓箔と空気層を進む距離が長く、さらに被照射物を通過する距離も同様に長くなります。そのために電子線のエネルギー損失が大きくなるため、図2に示すように電子線の透過能力は中心部と比較して低くなります。この傾向は電子のエネルギーが高いほど、また走査角度が大きいほど顕著になります。
図2.加速電圧750kVにおける照射位置の透過能力の比較
照射窓厚さや空気層厚さが増える事による被照射物への影響
加速電圧が300kVと低いときは、照射窓箔や空気層などで電子は大きな散乱を受けるために、走査角度による透過能力の差は非常に小さくなります。したがいまして、図3に示すように中心部と端部が同じ曲線で表わされるようになります。
図3 加速電圧300kVにおける照射位置の透過能力の比較
まとめ
スキャン型の電子線照射装置は加速電圧が高く、厚い材料に照射する場合が多いです。そのため素材内部における線量を評価する際に、この斜め入射の影響を無視できないケースもあります。似たような電子線照射を検討している場合は、是非参考にして下さい。
(寺澤記)
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