電子線照射による殺菌
投稿日:2022年09月22日最終更新日:2022年09月22日
電子線照射による効果として、架橋、グラフト重合、硬化および崩壊(切断)の4つがあります。殺菌は電子線照射による崩壊を利用した手法で、本記事ではその特徴や利用分野などについて説明します。
殺菌とは
殺菌に似た用語として滅菌、除菌、抗菌といった言葉がありますが、これらの違いを表1に示します。殺菌は有害な細菌やウイルスなどの微生物を死滅させることを言い、滅菌は有害・無害に関わらずあらゆる微生物を完全に殺菌させることを言います。特に滅菌は、無菌性保証水準(生育可能な1個の微生物が製品上に存在する確率)が原則10-6以下と定義付けられています。1)
電子線殺菌の原理
電子線を対象に照射することで直接作用と間接作用、この2つの作用でDNAにダメージを与え殺菌が行われます。
直接作用:DNA分子の二重螺旋構造に直接電子のエネルギーが吸収され、分子が切断されることによって不活性化します。
間接作用:細胞中に多量に存在する水と酸素に電子のエネルギーが吸収されると(高エネルギーの)フリーラジカルが生成、これらがDNA分子と反応して不活性化します。
殺菌方法の比較
電子線による殺菌以外にもガンマ線や加熱、ガスによる手法もあります。
ガンマ線は電子線と同じく放射線であり、殺菌の原理は同じです。電子線と比較した場合、透過能力に優れており梱包材ごと殺菌することができますが、殺菌に数時間かかり、線源の管理が非常に難しいです。(電子線照射とガンマ線照射の違いにつきましては、こちらを参照ください。)
高圧蒸気による殺菌は、オートクレーブと呼ばれる装置を用いて、対象物を飽和水蒸気中で121℃ 2気圧15分以上(通常20分)加熱し、湿熱で芽胞(耐久性の非常に高い細胞構造)を不活化させます。乾熱殺菌の高温には耐えられない樹脂製品器具、水分を含む本や書類、培地などの殺菌に最も適しています。逆に、濡れると都合の悪い器具には不向きです。
ガス殺菌では、エチレンオキシド(EOG)やホルムアルデヒドなどのアルキル化剤の気体(ガス)や、酸化剤であるオゾンの中に対象物を静置して殺菌します。EOGは主に熱に弱い医療器具などに、またホルムアルデヒド(ホルマリン燻蒸)は主に汚染された建物などの殺菌に用いられます。ただし使用するガスは人体に有害なものが多いので、対象物へのガスの残留や、処理終了後の排気には注意する必要があり、いわゆるガス抜きに時間がかかります。
表2に各種殺菌方法の比較を示しています。電子線による殺菌は、これらの手法と比較し下記の点で優れています。
(1) 瞬時に殺菌処理可能
殺菌処理時間に要する時間が瞬時~数秒のため高速処理が可能です。
(2) 常温で処理できるため熱に弱い製品も殺菌処理可能
処理条件や対象物により異なりますが殺菌処理時の温度上昇は1℃前後です。
そのため温度による品質劣化が伴う製品にも適用可能です。
(3)有害残留物がなく安全
電子線を照射しているだけであり、人体や生物に有害な物質の残留がありません。
放射線殺菌の利用分野
海外では殺菌や殺虫、発芽防止などを目的に食品や食品用包装容器への放射線殺菌が広く利用されています。FAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)、WHO(国連世界保健機構)等は食品照射の安全性に問題はないと判断しています。一方で日本国内の場合、じゃがいもの芽止めを目的として利用されていますが、その他に食品関連については食品衛生法第11条で食品に放射線照射をしてはならないと定められています。
電子線においては、殺菌用途として医療用具(手術用手袋、注射器等)、試験用検査器具(シャーレ等)および容器類などがあります。ガンマ線も同一用途に利用されますが、線源であるコバルト60の入手困難さ(値上がりによる輸入難)や、管理の大変さ等の課題から電子線に置き換わりつつあります。
まとめ
本記事では、電子線照射による崩壊の効果を利用した殺菌原理や用途について紹介しました。殺菌の手法には合わせて紹介したガンマ線や高圧蒸気、ガスを利用した手法もありますが、それぞれの特徴を理解し、被対象物に適した手法を選択することが大切です。是非参考にしてみて下さい。架橋の効果と比較すると、崩壊は注目されにくい効果ですが、このような殺菌用途以外にフッ素樹脂のリサイクルにも利用されています。今後のブログ記事でも紹介していく予定ですので楽しみにしていてください。
(藤田記)
参考文献
1) 厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課:「滅菌バリデーション基準」 2017年2月
以上
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