EB硬化の基礎その1 ~EB硬化の特徴と硬化樹脂について~
投稿日:2022年05月17日最終更新日:2022年05月17日
EB硬化技術は、1980年代に基礎研究から応用開発が進展し、今日では様々な産業分野に利用されています。最近では、省エネルギー化でCO₂排出量削減に大きく貢献することにより、SDGs達成に向けた取り組みの観点からも注目されています。
EB硬化技術を基礎編と応用編に分けてまとめてみました。今回は基礎編その1として、EB硬化の特長と利用分野及びEB硬化樹脂の概要などを紹介します。
EB硬化の特長と利用分野
塗料の硬化には、加熱、紫外線(UV)、EBが用いられます。EB硬化は、基材の表面に塗布したモノマーやオリゴマーをEB照射により重合させる技術です。一般的に以下のような特長があるといわれています。
① エネルギーの到達深さが深いため、厚膜コーティングや多層ラミネートが可能
② 照射雰囲気が常温であるため、熱に弱い基材への硬化が可能
③ 耐候性、耐熱性、耐薬品性、耐磨耗性などに優れた塗膜が得られる
④ 光重合開始剤が不要で、不揮発性塗膜の硬化を指向しており、低公害、省資源が期待できる
EB硬化とUV硬化は、光重合開始剤の添加有無以外は非常に類似しています。しかし、表1に示すように、比較しますと種々の点でEB硬化が優位であることが分かります。
EB硬化の利用分野
EB硬化技術は、例えば、薬品や化粧品の容器、建材、流通用食品包装フィルム、自動車など身の回りの製品に利用されています。
製品は様々な形態であるため、EB照射装置はそれに応じた搬送である、
①ウェブ・バッチ兼用
②ウェブ用
③板状物搬送
などの搬送ラインに対応することができます。
EB硬化の反応機構
EBによって硬化する樹脂の主成分は、反応性オリゴマーと反応性モノマーです。
これらの反応系にEB照射されると、イオン化や励起が起こり、樹脂中にラジカルが発生して反応が開始し、オリゴマーやモノマーの付加が行われて高分子化します。一方、ラジカル同士の結合や、生長鎖の失活などによる生長の停止や活性点の移動も起こります。
EB照射によるこれらの反応が起こるときはラジカル濃度が高く、瞬間的に重合が完結され、硬化膜の架橋密度が高く、耐薬品性、耐候性などの点で優れたものが得られやすいです。その反応機構を図1に示します。
図1 EB硬化の反応機構
EB硬化用樹脂の構成
EB硬化用樹脂の基本構成は反応性オリゴマーと反応性モノマーです。
1) 反応性オリゴマー(ベースレジン)
オリゴマーまたはプレポリマーは、最終生成物の基本的性能を主として決めることから、ベースレジンとも呼ばれています。
アクリル基(CH2=CHCOO)、またはメタクリル基〔CH2=C(CH3)COO〕を含んだアクリル変性樹脂は、放射線に対する反応速度が速く、低線量で硬化が進むことから、現在広く使われています。これらアクリル変性樹脂としては、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリウレタンアクリレートなどがあり、このほかにもシリコンアクリレート、メラミンアクリレート、ポリエーテルアクリレートなどがあります。表2は、これらアクリル変性のべースレジンの特徴を示したものです。ポリエステルアクリレートは他より比較的低粘度でモノマーとの相溶性が良好な特徴があります。エポキシアクリレートはビスフェノール、脂肪族、ノボラックがあり、紙及び金属などへのコーティングなどに適しますが、樹脂の粘度は一般に高くなります。ウレタンアクリレートはポリオールとジイソシアネートの組み合わせで軟質から硬質まで自由な樹脂設計が可能です。また、耐薬品性や耐摩耗性の膜を形成する特徴をもっています。
2) 反応性モノマー
ベースレジンは一般に分子量が大きいため粘度が高く、そのままでは作業性が悪く、目的にあった硬化物が得られにくくなっています。モノマーは、希釈剤として、ベースレジンを低粘度化し、架橋剤として架橋や重合によって樹脂の一部となり、所要の硬化樹脂の特性をし、硬化膜と基板との密着性や耐熱性などを向上させる役目ももっています。
一般に反応の速いアクリレート系モノマーが多く用いられます。表3に、モノマーの例を示します。
まとめ
EB硬化技術は、技術的には種々の特徴と可能性をもっていることは、これまで述べてきたことで明らかです。すなわち従来からいわれている無公害、省エネルギー、高生産の技術という生産面だけの利点だけでなく、高機能な品質を生み出せる技術であり、クリーンな作業環境など、将来に期待のかけられる技術分野であることは間違い無いと思われます。
尚、今回は基礎編その1としてEB硬化の特長とEB硬化樹脂の構成などを紹介しました。次回は基礎編その2として、ハードコート樹脂を用いて、線量、線量率、温度、照射雰囲気等を変化させてEB硬化を実施した時の基礎物性について紹介します。
(中井記)
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