電子線照射お役立ち情報

ポリエチレンの改質の話その3 ~酸化の影響および架橋による特性変化~

投稿日:2022年07月01日最終更新日:2022年07月04日

電子線加工でよく扱われる材料にポリエチレン(PE)があります。PEに対して電子線照射試験を実施したデータをもとに、電子線架橋に影響する因子について紹介していきます。
今回はその3として、表面酸化の影響が電子線架橋やPEの厚み方向にどのように影響を及ぼしているのか、また、電子線架橋が与えるPEの機械特性への影響や耐熱性の向上について紹介します。

照射雰囲気の電子線架橋への影響

空気中で電子線照射を行うと表層に酸化層が形成されます。酸化層では、架橋反応の起点となるラジカルが酸素との反応に消費されてしまっているため、架橋が進みません。また、酸化層は表層のみに形成されるので、比表面積の大きい薄いフィルムの方が照射雰囲気の影響は大きくなります。
照射雰囲気の電子線架橋への影響を確認するために、低密度ポリエチレン(LDPE)の20µm厚フィルムを空気中、不活性ガスである窒素中で照射し、ゲル分率を測定した結果を図1に示します。
窒素中照射は、空気中照射に比べて大きくゲル分率が向上し、窒素による架橋促進効果が確認できました。一方、厚みの大きいシートでは、窒素中、空気中の差は見られないことを確認しています。

LDPEフィルム, 照射雰囲気, 架橋効果の関係
図1 LDPEフィルムにおける照射雰囲気と架橋効果の関係

表面酸化の厚さ方向への影響

比表面積の大きい(薄い)サンプルは、表面酸化の影響が大きいことを確認しました。では、実際にどの程度の厚さまで酸化の影響がみられるのか確認するために試験を実施しました。
LDPEの20µm厚フィルムを不活性ガスとしてアルゴン雰囲気で5枚重ねて、電子線を照射し、各フィルム層のゲル分率を測定した結果を図2に示します。
空気と接しない内部(フィルム層②③④)のゲル分率に比べて、空気と接する表層(フィルム層①⑤)のゲル分率は低下していることが分かります。内部のフィルム層②③④のゲル分率には差がないことから、表面酸化の影響は、表面から20µm以下で起こっていると考えられます。
また、線量が大きい方が、表層と内部のゲル分率の差も大きくなることも分かります。

LDPE積層フィルム, 各層のゲル分率
図2 LDPE積層フィルムにおける各層のゲル分率

 

酸化の程度をフーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定でも確認しました。表層にあたるフィルム層①の電子線照射面側を全反射吸収(ATR)法にて吸光度測定した結果を図3に示します。
線量大のサンプルは、1715cm-1付近のカルボニル基(C=O)の吸光度が大きくなっており、酸化が進んでいることが分かります。線量が大きくなることでラジカル量も増え、増えたラジカルが空気中の酸素と反応し、酸化がどんどん進んだことが分かります。

フィルム層, 照射面, FT-IR測定結果
図3 フィルム層①照射面側のFT-IR測定結果

電子線照射の機械特性への影響

電子線照射によってPEは架橋とともに競争反応である崩壊も同時に起こっています。電子線照射によってPEの分子結合を切ることで発生したラジカルが、分子鎖内で結合すれば架橋となりますが、酸化したり、その他の要因で失活したりすると崩壊となります。一般的に機械特性は架橋に伴って増加するわけではなく、最適条件があると考えられています。
電子線照射の機械特性への影響を調べるために、電子線架橋したLDPE、高密度ポリエチレン(HDPE)の室温での破断応力と破断ストロークを測定しました。
LDPEは、線量増加とともにゲル分率も増加し、破断応力も大きくなりました。一方、HDPEは、線量増加とともにゲル分率は増加しますが、破断応力は小さくなりました(図4)。
破断ストロークについては、LDPEは線量が増加しても変化は少ないのですが、HDPEは、線量増加とともに顕著に伸びが小さくなりました(図5)。
LDPEとHDPEでも電子線照射による機械特性への影響は大きく異なることが分かります。

破断応力とゲル分率の関係
図4 破断応力とゲル分率の関係

 

破断ストロークとゲル分率の関係
図5 破断ストロークとゲル分率の関係

電子線照射の高温特性への影響

PEを架橋する主な目的は、耐熱性の向上です。
架橋PEの耐熱性を調べるために、重りをつけたサンプルを恒温槽内に吊り下げ、50mm変形する温度を確認する試験を実施しました。その結果を表1に示します。
LDPE、HDPE共に、未照射品に比べて線量大では約2倍の温度まで耐えるという結果となり、耐熱性が著しく改善されていることが分かります。

照射量と変形温度の関係
表1 照射量と変形温度の関係

まとめ

表面酸化は材料表層約20µm以内で起こっており、線量が増えると酸化度合いも大きくなります。
また、照射線量の増加に伴いゲル分率が大きくなると、耐熱性は著しく改善しますが、室温での機械特性はゲル分率に依存せず、材料によっても傾向が異なりますので注意が必要です。
ポリエチレンの改質の話は今回で終了となります。LDPEとHDPEでも照射の影響が異なる通り、電子線照射は材料の種類、結晶性、添加剤、形状等によりその効果が変わってきます。当社では長年培ってきたノウハウを元に最適な処理条件の探索をお手伝いさせていただきますので、どうぞ気軽にお問合せください。

(越智記)


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株式会社NHVコーポレーション EB加工部
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